震災時に安らぎ届けたスイーツ
アンジェリーナ社長 内海孝一さん
パティシエは、小学生女子の将来なりたい職業ナンバーワンだ。おいしいスイーツは、人々を幸せにしてくれる。石巻で30年以上、ケーキ店を続けている「アンジェリーナ」=石巻市あけぼの2丁目=の社長、内海孝一さんにケーキ作りに大切なことや、東日本大震災の時の思いなどを語ってもらった。
アンジェリーナの正式な店名は「パティスリー・アンジェリーナ」という。パティスリーは、パティシエがいて、ケーキや洋菓子を専門に売る店のこと。アンジェリーナでは17人が働いていて、このうち10人が内海さんのようにケーキを作っている。
パティシエになるには、学校卒業後に調理師学校で勉強する方法や、ケーキ屋さんで基本から修行する方法などがある。内海さんは、高校卒業後に自動車会社の工場で働いていたが、友達と行ったケーキ屋さんのケーキがとてもおいしくて、自分でも作りたいと思ったのが、この道に進んだきっかけという。34年前に石巻市山下町に店を開き、あけぼの店は20年くらいになる。
ケーキ店に来る人は、みんなニコニコして選んでいる。ある時、「病気のために生まれてから一度もケーキを食べたことのない子どもに、ぜひ食べさせてあげたい」と頼まれた。いろいろな本を参考に、カロリーや成分などの勉強をして作ったところ、その子が「とてもおいしかった」と喜んでくれたという。
10年前は、鹿妻にも店があったが、東日本大震災で津波に襲われすべてなくなってしまった。あけぼの店は無事だったが、停電や断水が続いて営業できないため、店にある焼き菓子を少しずつ避難所に配った。
その後、地域の人たちから頼まれて、主食になるクリームパンやドーナツなどを作った。食べた人たちから「助かった」と感謝されたのが励みになった。鹿妻店の再開は無理だったが、「仕事をやめようとは思わなかった。どのように再スタートできるかという考えの方が強かった」と振り返る。
子どもたちには「『ありがとう』という、感謝の気持ちを素直に伝えることのできる人になってほしいです」と話す。食べ物や水がほとんどなかった震災の時、応援をしてくれた人たちに、子どもも大人も心からありがとうと伝えたが、今はおいしいものを食べることも特別ではなくなった。
「でも、世界には食べられない人もいます。石巻の子どもたちには、自分たちが恵まれていることを考えてほしいです。そして、あたりまえの生活を作ってくれている家族や周囲の人たちに感謝の気持ちをちゃんと伝えてほしいです」と話していた。
「ありがとう」を素直に伝える人に
▲一つ一つ心を込めて作り上げる
▲できたてのお菓子は、さらにおいしそう
取材・文・写真
今野 ひなた
(蛇田小学校6年)