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おかえり、北上川のヨシたち

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帰ってきたヨシ原と川に暮らす生き物たち

 

堀内孝さんは20年以上にわたって北上川河口のヨシ原を撮り続けている。この春には、堀内さんが文と写真をてがけた、「海と川が生んだたからもの北上川のヨシ原」(「月刊たくさんのふしぎ」福音館書店、2021年3月号)が発売された。北上川のヨシ原と堀内さんの物語はどのようなものだったのだろうか。

堀内さんは、小学校高学年の時、お年玉をためてカメラを買ったのがきっかけで、写真に興味をもち、撮り始めた。これまでは、主にマダガスカルや中国、東南アジアの写真を撮ってきたが、ある時、かやぶき屋根をふく会社の取材で初めて北上のヨシのことを知り、以来、何度も北上川に足を運んだ。

マダガスカルと北上川は人と自然の関わりがあってとても好きだ、と堀内さんは言う。「マダガスカルには独特の自然環境がありますが、身近な北上川にも豊かな生態系があることに気がつきました」と話す。
2011年の東日本大震災で、ヨシ原は津波のどろ水をかぶり、全体の半分ちかくがなくなってしまった。まず、かやぶき屋根の仕事をしている人たちが中心になって、流されてきたゴミをかたづけ、その後、仙台二華中学校の生徒やボランティアの人たちがヨシを植え始めた。移植されたヨシの数はこれまで2000株以上。地震でちん下した地盤がまた隆起したこともあって、ヨシ原は震災前の7割ほどまでに回復し、オオヨシキリやヒヌマイトトンボ、ベッコウシジミなどが再び見られるようになった。ヨシ原は人々の努力と自然の再生力でかつての姿をとりもどしつつある。

東日本大震災の時、縁石にしゃがみこんで泣いていた人がいた。震災の記録であったとしても、その人の気持ちを思うとカメラを向けられなかった。この10年間、「写真家として一体何ができるだろうか」という思いが消えなかったという。答えがないままに堀内さんは、北上川の変遷を見守り、ヨシ原の写真を撮り続けていた。そんなとき、たくさんのふしぎ編集部の人たちと、「震災があって、水辺の生き物や人々の暮らしはどうなっているのだろう」と北上川のヨシのことが話題にのぼった。堀内さんは、あの震災を知らない子どもたちへ、本を書いてみることに決めた。

「遠くへ行かなくても身近なものに目をむけてみると、かならずおもしろいことがたくさん見つかると思います」と堀内さんは言っている。

 

 

 

取材・文・写真
須田 朔也
(石巻小学校5年)

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