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かんなぎ

映画「すずめの戸締まり」には東日本大震災に関係する描写や内容があると友人から聞き観に行った。あとで気がついたことだが、今年で震災から12年となり、そのころ7歳だった私にも、当時の心境や光景があまり思い出せなくなってきていた。
ところが、映画を観て、記憶がブワッとあふれ出した。これ程までに震災は、記憶という枠で収まらず、深く心や体に刻まれているのだと自覚できた。
今、私は学芸員資格を取るための勉強をしている。それはなぜなのか改めて考えてみると、故郷の大好きだった情景を忘れたくないと思ったからだ。
お祭りで行われていた神楽の舞、荒々しい太鼓のメロディーと美しい笛の音色、それに釘付けになる町の人々。そんなごく普通とも捉えられる日常の一コマが、たった1回の地震と津波で一瞬にして壊され、もう二度と戻らないものとなってしまった。「二度と戻らない」と自分の中で自覚するのさえ何年とかかった。
もう以前のように戻ることはできないとしても、昔から行われてきた伝統芸能をここで途絶えさせることなく、昔から脈々と行われてきたのだと後世に伝えていくこと。これこそが私にできることであり、そのために学芸員の資格を取るのだとしっかり確認できた。
時と共に、震災を思い起こす機会が減ってきていると感じる。こうして折に触れ思い出し、自分の気持ちを確認し、糧にして、これからに生かして行こうと思う。

阿部 洋都
盛岡大学1年生

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