ないからこそ作れるものがある
リボーンアート・フェスティバル2019
宮城県の牡鹿半島を舞台とする芸術祭「リボーンアート・フェスティバル2019」が8月3日に開幕した。2017年に引き続き2回目の開催となる。東日本大震災という自然の猛威から立ち上がり、生まれ変わろうとしている石巻地域に、約70組のアーティストの作品が展示されている。
前回は出展作家の一人だった有馬さん。今回はそのコンセプトを引き継ぎ、市街地エリアのキュレーションを手がけた。エリアテーマを「街のマンガロードとアートロード」に設定している。
2016年に初めて石巻に来て、リサーチを始めた。「石巻の若い人たちの今の気持ちを知りたいと思いました。石巻の作家を集め、表現者を育てたいと考えました。それが、石巻で僕が何かをする意味だと思ったからです」と有馬さん。
前回2017年の開催時、高校生が企画して展示することを主催者に提案したが、条件が整わず実現しなかった。今回は2人の現役高校生も出展している。
展示場所の一つは「石巻のキワマリ荘」。5人の石巻在住作家の作品が展示されている。キワマリ荘とはなんだろう?「いろんな不幸が自分の身にあって、部屋にこもってしまったことがあり、気がついたら絵を描いていました。白い部屋の机の上で絵を描いている自分のイメージがずっとありました。それで、自分は絵を極めるんだな、と思ったんです」。そして思いついた名前が「キワマリ荘」。有馬さんは90年代に貸画廊で「キワマリ荘の住人」展シリーズを4回発表し、その後、愛知県、茨城県、そして石巻に実際に「キワマリ荘」という制作と展示のための場所をつくった。現在は住人の立場を後輩に譲っている。
中学、高校時代、有馬さんは本当にどん底にいてなにもできずにいたそうだ。「今日はカレーを食べよう、と考えて、学食でカレー食べる」ことすら、「思ったことを実現する」訓練のひとつだった。でも、そういう小さな成功体験の積み重ねが自分を変えていく、それが連鎖して社会が変わっていく。今、石巻の若者たちにはそういう機会があると感じている。震災後、石巻は街としてまだ完成していないから、試行錯誤ができる。やってはみたけれど、結果につながらないようなことも時には必要だ。できあがった場所ではなかなかそれができない。今、石巻の大人たちががんばっていることが、高校生たちが大人になるころに形になっていき、新しい街のあり方を引き継いでいく。なにもないということは、何か作れるということだ、と有馬さんは教えてくれた。
リボーンアート・フェスティバル2019は9月29日(日)まで。ぜひ、多くの人たちに見に来てほしい。
有馬かおる
1969年生まれ。愛知県出身、石巻市在住。ドローイングを中心にペインティング、彫刻などを制作、【2面】「キワマリ荘プロジェクト」を行っている。リボーンアート・フェスティバル2019市街地エリアキュレーター。
リボーンアート・フェスティバル2019
平日10:00-16:00 水曜定休
問い合わせ:0225-90-4726
★こども記者・八重樫蓮さんの作品
「ランドマーク?」も市街地エリアに展示中
【取材・文・写真】
八重樫 蓮(石巻工業高校3年生)