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ヨシ原再生へ願い込め 仙台二華中「北上川フィールドワーク」

令和3年5月28日、宮城県仙台二華中学校2年生が、北上川河口でフィールドワークを行った。東日本大震災で被害を受けたヨシ原を再生させるための植栽活動や、干潟の生物の観察を通して、環境保全について考えることを目的とする。晴天のもと、生徒たちは泥まみれになりながら、真剣な表情でヨシの移植などの活動に臨んだ。
仙台駅にほど近い宮城県仙台二華中学校から、活動場所である「新北上川」の河口までは、車で約1時間半。河川敷での活動は、降雨時は危険を伴うため天候に左右されるが、この日は晴天に恵まれた。貸し切りバスで到着した仙台二華中2年生の生徒103人は、まぶしい日差しの中、午前10時半から活動を開始した。
仙台二華中の北上川フィールドワークは、2015年から実施されており、今年で7年目。教員の徳能克也さんは、「もともと仙台二華高校の生徒が北上川上流域(岩手県内)をフィールドとして植樹活動などを行っていたため、その下流域(宮城県内)を中学生が担当しましょうという経緯で始まりました」と説明する。
この北上川の上流から下流にわたる野外活動の指導に、10年以上も携わっている山田一裕さん(東北工業大学工学部環境応用化学科教授)は、学校には、あくまで環境保全・再生活動を提案し協力してもらっているのだという。「生徒のみなさんには、学習の一コマとしてだけでなく、危険な行為の回避や安全対策など活動上のルールを守って真剣に取り組んでもらいたいと願っています」と話す。

充実した事前学習

当日の活動を有意義なものにするために、事前学習は欠かせない。フィールドワークに先立ち3回の講演会が開催された。
まず4月22日、山田さんが、北上川河口のヨシ原をテーマに講演を行った。生徒たちは、日本の水環境問題、ヨシ原の価値や役割などについて学び、ヨシ原の再生に向けて、さらには目の前に迫り来る環境問題に対して何をすべきかについて考えを巡らせた。
続く5月6日には、社会科教員の鈴木厚史さんが、川と私たちの生活との関わりや北上川についての講義を行い、生徒たちは、地理的、歴史的側面から北上川への理解を深めた。
最終回の5月13日、伊藤絹子さん(元東北大学大学院農学研究科)が、「自然から学ぶ生命のいとなみと私たちの環境」と題して講演を行った。地球環境の特徴や、川と海が接する場所である河口域の生態系について詳しく説明した。
伊藤さんは、実際に現地に行って体験をすることの大切さについても強調した。「水、砂、泥の感触、植物やカニや貝類などの動物の生活の状態を観察することは、本、テレビなどで見ているものとは大きく異なることを実感できます。自分の目で確かめたこと、気づいたこと、考えたことを必ず記録し、自分のノートを大切にしてください」とメッセージを送った。

干潟の観察

現地に到着して最初の活動は、干潟に生息する生物の観察。慣れないぬかるみに足を取られ、油断すると転びそうになる。生徒たちは4人組の活動班に分かれ、自分たちで決めた場所に50㌢四方のコドラート(方形区)を作り始めた。
表面の観察が終わると、コドラートを4等分に区切り、そのうちの1区画の泥を10㌢の深さまで掘る。この泥をふるいにかけ、泥の中に生息する生物を種類ごとに数え、丹念に記録していく。この作業が一番時間がかかる。カニやゴカイ、ヤマトシジミなど、多くの小さな生物から、ヨシ原がさまざまな生物の生態系を支えていることを実感できる。観察が終わったら、生物を川に返す。干潟表面と深さ10㌢の泥の様子の比較や、塩分濃度の測定なども行った。

3班で移植

干潟の調査が終わると、ヨシの移植活動を開始。近くの群生地からヨシをスコップで採取し、ヨシ原がなくなっているところに移植していく。山田さんの指導のもと、ヨシの株取りをする採取班、採取したヨシを運ぶ運搬班、移植班の3グループに分かれて作業を行った。途中で作業班を交代し、複数の作業を体験した。
生徒たちは、泥の不安定な足場の中、協力しながら作業を進め、約2時間の活動で300株ほどのヨシを移植することができた。皆、大自然の再生を手助けするという素晴らしい経験をし、汗だくになりながらも満足気な表情を浮かべていた。
2011年3月の東日本大震災により、ここ北上川河口域のヨシ原も大きな被害を受けたが、徐々に震災前の姿を取り戻しつつある。歴代の二華中生が移植したヨシが、しっかりと根付いている様子も観察できた。
生徒からは「僕たちのヨシもたくましく成長してほしい」「後輩たちにも引き継がれ元通りになってほしい」「たくさんの命を守り育む美しいヨシ原を守るため、自然を大切に生活したい」などの声が聞かれた。

次代につなぐ

ヨシの移植を終えてから、国宝・重要文化財の保存修理や茅葺き工事を手掛けている有限会社熊谷産業(石巻市北上)を訪れ、ヨシについて学んだ。北上川河口のような、海水と淡水が混ざり合う汽水域に生えるヨシは、丈が短く細く締まっており、茅葺きに使われる。北上川河口のヨシは、全国の伝統的建築物の修復・維持に活用されている。
同社の建物の壁はヨシでできており、建築資材としての利用を目の当たりにすることができる。「ヨシでできた壁が意外と丈夫だったことに驚いた」「ヨシが身近に感じられた」などの感想があった。
事前学習を担当した伊藤さんは、生徒たちに、「自然のしくみ」と「人間社会のあり方」について、広い視野、多角的な視点から考えることができるような素養・知識を身につけてほしいと考えている。地球環境の問題やSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みのために、自然のしくみを正しく理解することは欠かせない。
「身近な自然に少し目を向けるだけでも多くのことを学ぶきっかけが生まれます。将来の理想的な社会像、自分はどんな存在でありたいのかなどを描きつつ、今、学ぶべきことをしっかり身につけ、『知の引き出し』をたくさん作ってほしいと思います」と話していた。
一度壊れた自然を回復・再生させることは大変な労力・資金を必要とする。山田さんは、この活動を通して、迫り来る温暖化や自然破壊を何とか食い止めるために、今何を努力するべきか、想像してほしいと訴える。ヨシ一株を植えるのにこれだけの汗をかいたという体験は、その想像力を養うのに役立つ。
「環境問題の解決や、昨今のSDGsへの取り組みは、教科書に載っている学習テーマではなく、現実を変える行動力が問われています。皆さんの知識はその方法を具体化し、皆さんのフィールドワーク体験が、実践への一歩を後押ししてくれるとうれしいです」と生徒たちにエールを送った。

取材・文 舛 菜々子(仙台二華中学校2年生)

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