大切な命と故郷を想って ウクライナが私たちに教えてくれること
6月26日(日)、石巻地域で活動する女優の三國裕子さんによるひとり芝居「戦場の祈り/凧になったお母さん」―ウクライナ支援チャリティ公演(於:マルホンまきあーとテラス)が行われた。ロシアとウクライナの戦争で、心が痛む毎日を過ごす中、自分に何ができるかと考えた結果、「芝居だ」と思ったそうだ。「一人が願ってもなかなか届かない思いも、芝居を見てもらうことで多くの人に共有できれば届くのではないかと思いました」と三國さんは話す。公演後、三國さんに協力いただき、石巻在住のウクライナの皆さんとその家族に話を聞くことができた。
イリナさんとリディヤさん
「ウクライナは美しい国、来た人はみな一目惚れします。ウクライナ人はウクライナが大好きです。どこにいても、渡り鳥のように故郷に戻ってくる、という例えがあります」今年4月ウクライナから石巻に避難してきたイリナ・ホンチャロヴァさんは、故郷への思いを語る。戦争が始まったと知った瞬間、今までの生活、人生が思っていたように続くことはなくなったと思い、悲しい気持ちになった。「戦争にいいことはありません」
長男のヴィタリーさんが、奥さんの真由美さんと石巻に住んでいたので、日本政府が避難民を受け入れることになったことで、来日が決まった。避難は命懸けだった。イリナさんはウクライナ北部のチェルニヒウ市に住んでいて、隣国ポーランド経由で日本に来ることになった。4月、ウクライナの空にミサイルが飛ぶ中、母のリディヤさんとともにワルシャワに向かった。
1万キロを超える旅をして石巻に着いた時、日和山に桜が咲いていた。日本に来たな、と感じた。隔離期間中、家の窓から、桜やお花見をしている人たちを見ていた。あまりにも静かで違和感を覚えたそうだ。「静かすぎて、これでいいのかわからないと思いました」。外出できるようになって散歩をするうちに、住んでいた街と似ているところを見つけたり、優しい人々に出会ったり、ゆっくりと心が温まっていった。
多くの人の助けにより、生活に必要なものをそろえることができた。石巻市から復興公営住宅が提供され、生活に関わるサポートも受けている。何よりご近所さんがいて本当に助かっていると話す。みなさんが日本のことを教えてくれるから、言葉でコミュニケーションをとるのは大切と、日本語学校に通っている。「25年間小学校の教員として教壇に立っていましたが、日本語の勉強は難しいです」とイリナさんは笑う。
日本はケーキがとてもおいしいし、カルピスのようなドリンク類が豊富で楽しい、とイリナさん。リディヤさんは日本のアイスクリームも大好きになったそうだ。
一方で、イリナさんは、悲しい、寂しい思いはいつも心の中にあって離れない、と言う。故郷に残っている次男もいる。戦争の記憶は生きている限り消えないと思う。東日本大震災で受けた石巻の被災と同じだと言う。「でも、大きな違いがあります。震災は自然が起こしますが、戦争は人間が起こすのです」
9月から、震災遺構・門脇小学校で、ボランティアとして、月に2回、ウクライナのことを話している。「まず、まわりの人々に親切にする、優しくする、ひとりひとりが世界の平和を願うことは地球を大切にすることにつながります」とイリナさんは話していた。
ヴィタリーさんと真由美さん
ヴィタリーさんと真由美さんはタイのチェンマイで出会った。お互いの言葉はわからなかったが、学校でタイ式マッサージをともに学んだ。結婚して、2019年の11月ごろヴィタリーさんは来日し、今、真由美さんと一緒に、石巻でタイ古式マッサージ店を営んでいる。「海のそばにある石巻が好きです。日和山は静かで、海のにおいがします」とヴィタリーさんは言う。海が好きなヴィタリーさんは、石巻でわかめ漁を手伝ったこともある。
故郷で戦争が始まり家族や友人のことが心配でたまらない中、母のイリナさんと祖母のリディヤさんが日本に避難することが決まった「ポーランドの日本大使館から連絡があって、本人が手続きをしなければならないということがわかりました。日本語の書類だし、ポーランドに連絡をして、私が確認しなければならないこともありました」。一刻も早く呼び寄せたい一心だった、と真由美さんは当時を振り返る。時差や言葉の問題から、手続きは本当に大変だったそうだ。
今年8月、二人でウクライナ料理店をオープンすることに決めた。日本で手に入らない食材もあるけれど工夫して、料理を通じてウクライナを知ってもらいたいと考えている。「ウクライナ料理の魅力は、代表的なボルシチのように、時間がたつほど、時間をかけるほど、味が出るということです」とヴィタリーさんは話す。真由美さんは「奪い合うのではなく、譲り合う心を育める世の中になってほしいです。人を大切に、命を大切にしたいと思います」と話していた。
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三國さんのチャリティー公演には、約300人が訪れ、来場者のみならず、県内外からも賛同者の寄付が寄せられ、約140万円が集まった。全額、日本ウクライナ友好協会(KRAIANY)に寄付された。三國さんは、やってよかった、と話す。「できない理由はいくつでも探すことができます。でも、やると決めたら理由は一つしかないんです」
Borsch-ボルシチ-
宮城県石巻市立町2丁目3−10 BAR山小屋内
☎080-1146-2125
営業時間:水・土11:00-14:30
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特定非営利活動法人
日本ウクライナ友好協会
KRAIANY
https://www.kraiany.org/ja/
取材・文
千葉 美琴(蛇田中学校1年生)