「~忘れない 伝えていく~刺繡画 レジリエンスー千手観音菩薩―」という刺繍の展示会が、3月11日から20日まで女川町まちなか交流館・ロビーで開かれた。事前に学校から渡されたパンフレットには、絵のような写真のような、不思議な観音様の刺繍画があった。これは、刺繍作家の星野真弓さん=東京都在住=が、東日本大震災から10年の節目に完成させた作品だ。展示会の前日、会場の準備をしていた星野さんから話を聞いた。
あきらめない大切さ伝える
刺繡画の「千手観音菩薩」を初めて目の前で見たときは、リアルで、インパクトが大きくてびっくりした。よく見るとちゃんとひと針ひと針刺してあった。こんな素敵な作品をどうやって作っているのだろうか。
星野さんに刺繍を始めたきっかけを尋ねると、最初は趣味の一つだったという。「キーホルダーなどを作っているうちに、あまりに楽しくて、はまってしまいました。完成したときの達成感がたまらない」と笑顔で答えてくれた。
これまで完成させた作品は約20点。一つの作品を作るのに1年以上かかることもある。テーマを決めたらイメージを頭に描いて針を進めていく。下描きはしないそうだ。もともと趣味で油絵を描いていたが、刺繍の勉強のためにフランスに行ってデッサンを学んだり、独学で本を読んで研究を続けたという。
東日本大震災の後、被災地の人たちを元気づけようと、刺繍画を持っていって見てもらったところ、みんなが喜んでくれた。仮設住宅の集会所で刺繍教室を開いたりもした。その思いは今でも続いていて、毎年東北に足を運んでいる。
女川にも何回か訪れて復興する町の様子を見てきた。今はきれいな街並みになり、新しい店もたくさんできたが、「きれいな海が広がる素敵な町」の印象は以前と同じだ。
その町でこのような展示会を開き、多くの町民の方に見てもらったのは「本当にうれしいこと」と感激する。実際、期間中はたくさんの人が来場し、中には他県からわざわざ訪れた人もいた。
これまでの作品の中で、一番のお気に入りは「桜」。震災後の東北をイメージして作った希望の風景で、今回の女川会場にも展示された。
楽しみながら挑戦
星野さんは「これからも展示会を全国各地で開くことで思いを伝え、人の心をつないでいきたい」と話し、みんなに刺繍を楽しんでほしいとエールを送る。
取材中に目の前で刺繍の実演を見せてくれたが、魔法のように指が動き、きれいな模様ができるのにはびっくりした。22万以上のマスをクロスステッチした「千手観音菩薩」は、星野さんのあきらめずに努力する姿勢と、一つのことに集中する力によって完成できたものだ。私たちも見習いたい。
そして、できれば女川の景色を刺繍画で作ってほしいと思う。自然の美しさや復興の姿を多くの人に見てもらいたい。
取材・文
阿部 ひなた
木村 優杏
佐竹 杏優
(女川中学校1年)