皆で守り、未来へつなげよう
身近な自然の宝庫を再発見
岩手県中央部の岩手町を源泉に、宮城県石巻市まで流れる北上川は、東北最大の川だ。石巻湾に流れ着く旧北上川と、追波湾に注ぐ北上川がある。このうち北上川河口は自然が豊かで、国内最大級のヨシ原を作り、その中で多種多様な生き物が育っている。でも、人間が流したゴミも多く、このままでは環境に影響を与えることにもなる。自然の宝庫を守るためにはどうすればいいのか。長年、ヨシ原の調査をしている東北工業大学教授の山田一裕さんに教えてもらった。
北上川河口を代表する風景といえばヨシ原だが、昔はアシ原と呼ばれていた。アシは悪し(悪いもの)という意味。
大人もすっぽりと埋もれてしまうほど背の高いヨシが群生し、人気のない所にはいろんなものが溜まっている。
昔の人たちは、そこには、何か自分たちにとって都合の悪いものがあるのではないか?よくない人たちが隠れているんじゃないか?と想像したため悪い所、つまりアシ、アシ原と言われたという説がある。
山田さんがそのヨシ原に調査に行くと、中はゴミだらけ。人が捨てた物が溜まってしまい、大きなゴミ箱のようになっている。
■北上川の生き物たち
岩手県から宮城県まで流れている北上川は、上流、下流で周囲の状況が違っている。川を利用した田んぼがあったり、河口だったらヨシ原もあるし、町もある。
当然、場所によって生き物の種類も多さも違ってくる。その生き物たちを国土交通省が定期的に調査して、河川環境データベースとして公開している。それを見ると、魚類、鳥類、昆虫類などたくさんの生き物がいることが分かる。
また、環境省では北上川河口部を「生物多様性の観点から重要度の高い湿地」としている。それほど自然の豊かな場所だ。
北上川の生き物として山田さんがすぐに思いつくものは、ヤマトシジミだ。海水と淡水(川の水)が混ざり合う汽水域で、プランクトンがたくさんいて栄養が豊富。その中で育ったシジミの貝殻はベッコウ色で美しい。ベッコウシジミとして、地域の特産物となっている。
また、秋になればサケが岩手県盛岡市の小さな川にまで遡上する。「いかにこの大きな川が生き物たちにとって大切かわかってもらいたいたい」と山田さんは言う。
きれいに見えてもゴミがたくさん
■絶滅危惧の鳥も
北上川には渡り鳥もたくさんやって来る。河口のヨシ原にいるのは、オオヨシキリ、コヨシキリというヨシキリの仲間だ。スズメくらいの大きさの鳥で、よくギョギョシ、ギョギョシ、ギョギョシとヨシ原の中でけたたましく鳴いている。5月の中旬から8月くらいまで、川沿いの草がしげっている所に行けば聞こえて来るそうだ。
他にヨシゴイという絶滅危惧種の鳥がいる。10年前の東日本大震災でヨシ原が被災したため一時期いなくなっていたが、数年後に戻ってきていた。
ある日、いつものように調査をしていた山田さんがヨシゴイを見た時は、「ようやくヨシ原も元に戻りつつあるなぁ」と感じたそうだ。
北上川の自然は戻りつつあるけれども、人間が出したゴミはいつまでも消えることなく残っている。
皮肉なことに人間が作り、生き物たちを邪魔するようなものを巣などにしている鳥やカニもいる。ヨシ原の中にもビニールひもで作ったオオヨシキリの巣があり、それを見つけた山田さんは「とてもがっかりした」という。」
■自然に対して謙虚に
環境が変わると、多くの生き物は、生きていくことができない。自分で動けない植物は、もっと大変だ。だから自然を守り、今の姿で未来に残していかなければいけない。
人間の生活はどんどん便利になっている。蛇口をひねれば水が流れ、おいしい野菜や米を食べることもできる。いろいろな原料や材料は、動植物からできている。動植物がいなくなれば人間は何もできない。
山田さんは「人間は謙虚にならないといけない。汽水域をしっかり残すために水道水を無駄に使いすぎない、外来種(もともと日本にいない生き物)を外に放さないなど、小さなことでも意識して、行動することが大事」と話す。
生き物を守るためにできることは他にもたくさんあるはずだ。私たちも考えながら暮らしていきたい。
自然を守るために
皆さんも行動しよう
山田 一裕さん
東北工業大学環境応用化学科教授。循環型社会づくりに向けて東北の自然環境や資源に着目。北上川河口には20年以上通い、調査、研究に取り組んでいる。石巻日日こども新聞37号で紹介した堀内孝さん著「海と川が生んだたからもの 北上川のヨシ原」(福音館書店発行「月刊たくさんのふしぎ3月号」)にも協力した。
取材・文
千葉 ふうな
(石巻中学校1年)