記事詳細

石巻への恩返し

娘の思いをテイラー文庫に託して

みなさんはテイラー・アンダーソンさんを覚えているだろうか?石巻市内の小・中学校で、ALT(外国語指導助手)として働いていた彼女は、東日本大震災によって亡くなった。彼女は生徒たちをとても大事にし、「日本とアメリカの架け橋になりたい」という夢を持っていた。彼女の思いを引き継ぎ、石巻の子どもたちへの支援を続けているご両親に今の思いを聞いた。

 その日は、朝早くテレビで娘のテイラーさんのいる宮城県で大きな地震が起きたことを知った。しばらくは「震災」という言葉を理解できず、テレビに映っている映像をただ見入るだけだったが、とにかく娘に連絡を取ろうとした。しかし、全く連絡が取れず、10日後、亡くなっていたことを知らされた。「信じられませんでした。信じたくありませんでした」と二人は話す。
 夫妻は前を向くことにした。娘のかわりに、私たちが彼女のしたかったことをしようと。そこで思いついたのは、彼女の人生や、コミュニティがあった石巻に恩返しをすることだった。テイラーさんが好きだった本を石巻の人たちと共有できる「文庫」をつくることにした。本を読んで想像することで、石巻の子どもたちが、人生において何が大切なのかを学び、夢を描けるようにと願いを込めた。
 人生について深く考えるようになったのも、テイラーさんの死がきっかけだった。「人生は短くて貴重なものだということを娘から教わりました」と母のジーンさん。「簡単に愛するものが奪われてしまいました。でもそこから、日々を大切にすることを学び、同時に、娘が大切にしていたものがここにあったことも分かりました」と父のアンディさんは話す。
 震災前は石巻のことを知らなかった二人も、すでに10数回訪れ、大切な場所になっている。震災直後に比べ、人々の笑顔がたくさん見られるようになり、建物も増え、町もきれいになり、雰囲気も明るくなった。何よりも、石巻には素敵な人がいっぱいいる。
 夫妻は、テイラーさんが石巻の子どもたちを愛していたことを知っている。だからこそ、子どもたちに伝えたいことがある。それは、互いを思いやること、やりたいことを見つけて、探検し夢を追い続けること。この二つは、テイラーさんが大事にしていたことでもある。
 3月14日、石巻市立湊中学校に、新たに、14番目のテイラー文庫がつくられ、本と本棚の贈呈式が行われた。図書委員の本田空さん(2年生)は「本が好きなのでとてもうれしいです。読書を通じてたくさん知識をつけていきたいです」とあいさつした。校長の中塩栄一さんは、テイラー文庫の設置に「英語の本も置いていけば、他言語に興味を持つ生徒が増えていくと思います」と期待を寄せた。

【取材・文】
齋藤 小枝(石巻好文館高校1年生)

Copyright (C) Kodomo Mirai Kenkyusho. All Rights Reserved.