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葦紙で世界をむすぶ

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一つの思いから二つの国へ

 

石巻市内のいろいろな店で、葦紙を使ったレターセットやカレンダーなどが販売されている。葦は全国各地に分布しているイネ科ヨシ属の多年草だが、中でも北上川の葦原は特に有名だ。石巻の葦を配合した葦紙の販売元、新古里農園の西村 陽子さんを取材した。

西村さんは長野県出身で、石巻に来たのは、9年前の東日本大震災がきっかけだ。最初は石巻市立湊小学校で半年間、ボランティアとして活動をした。湊小学校の避難所閉鎖に伴い、一旦長野県に戻ったが、北上地区でNPO法人がスタッフの募集をしているのを知り、長野県から北上地区へやってきた。
そして、町おこしのために震災前に作られたという、北上川産の葦が配合された紙と出会った。葦紙の製品は、津波の被害に会い、そのほとんどが流されてしまったのだが、一部が残っていたのだ。紙作りが大好きだった西村さんは、地域の方々といっしょに葦紙を復活させた。長い葦から紙作りに必要な部分だけを切り出す作業には、たくさんの人の力が必要だったが、地域の人たちみんなが協力してくれた。
葦紙は、広い年代の人たちに人気がある。西村さんは葦紙を作るだけでなく、地域の人たちと「手づりんくいしのまき」という名前で、被災した各地をまわり、葦の紙すきや葦紙を使った小物作りなどのワークショップも開催してきた。
西村さんは、小学5年生の時から、海外でボランティア活動をしたいと思っていた。そこで、大学卒業後は長野県の支援学校に勤務しながら青年海外協力隊の試験を受けて合格した。派遣場所は、ヨルダンだった。
だけど、次第にヨルダンよりも、もっと支援の手が必要なイラクで活動をするようになった。当時は、湾岸戦争後の大変な時で、戦争中に使用された劣化ウラン弾で、イラクの子どもたちの健康被害が大きかったからだ。西村さんは、今でも「アラブの子どもたちとなかよくする会」を通じてイラクの子どもたちの支援活動を続けている。
西村さんは、今年も北上川の葦紙を使ってカレンダーを作って販売し、収益をイラクへ送った。カレンダーの絵と文字は、イラクの子どもたちが書いた。イラクにも北上川とよく似た風景があるそうだ。西村さんは、そんな不思議な縁を葦紙のカレンダーでつないだのだ。北上川の葦紙は、日本から世界へ、支援の思いをつなげてくれている。


▲北上川の葦刈りの風景。(石巻市主催のにっこり写真コンクールで入賞した横田弘さんの「葦を運ぶ」)


▲石巻市北上町産の葦のパルプを配合した葦紙の製品


▲北上川と似ているイラクの風景

【取材・文】
松坂 颯真(湊中学校2年生)
馬場 珀虎(湊中学校2年生)

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