本の世界に魅了
10月上旬、「石巻まちんなか文化祭2022」(石ノ森萬画館主催)が2日間にわたって開催された。「アフレコ体験教室」(アフレコは撮影後にセリフだけを録音すること)では声優の山口由里子さんが講師をつとめ、子どもから大人まで多くの人が訪れた。終了後、山口さんにお話を聞いた。
声優の仕事は子どもたちのあこがれだ。「はじめに台本を読む時は、自分の役を気にせずに、話の流れや感動するところ、大切なシーンを、客観的に小説のように読みます」と山口さん。収録は、基本的には、大人数が多い。ところが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、バラバラに録ることも増え、1つの作品をみんなで作る楽しさを味わう機会が少なくなったそうだ。声優の仕事は意外に体力を要する。山口さんは、昔から歩くのが好きでよく山に登っているが、コロナ禍になってから自粛している。その代わり、日常生活では、エスカレーターを使わずに階段で上り下りをしたり、ジムに行ったりしてこまめに体を動かしている。
山口さんは、ボランティアで、読み聞かせ活動も行っている。きっかけは、内モンゴルの有名な音楽家が来日し、一緒に日本全国の小・中学校を回ったことだった。「スーホの白い馬」というモンゴルの物語を朗読した。「読み聞かせること」に、今までにない幸せを感じた。その後、息子が通う幼稚園からの依頼で読み聞かせを始めると、次第に地域に広まって、今では小学校でも読み聞かせを行なっている。
山口さんの読み聞かせは「お話の世界に引き込まれる」と好評だ。「声優になる前は芝居をしていましたし、音楽公演での朗読経験から、聞いている子どもたちが、話の世界に入っていることを感じられるようになったんです」。聞いている間、子どもたちは話の世界に引き込まれ、それぞれ違う世界を想像をする。だから感性が養われる、と山口さんは言う。「例えば『スーホの白い馬』なら、ひとりひとり違う馬を想像しているはずですし、感動するところも、好きなところも違うんです」。想像力を高めるには、リラックスした状態で聞いてもらうことが大切だそう。
山口さんが前回石巻に来たのは4年前。当時はさみしい感じがしたが、今は道路や建物などが新しくなり、とても明るくてきれいな街になったという印象を持った。実は今回初めて石ノ森萬画館を訪れた。「夢の国みたい」と感じ、わくわくした。東日本大震災の津波は石ノ森萬画館1階の天井に達するほど高かった。「街がここまで復興しているのは本当にすごいことですね」と話していた。
取材・文
村松 玲里(蛇田中学校2年生)