もう一度あたたかい春を
今年3月21日、旧観慶丸商店(石巻市中央)で、自主制作映画「春をかさねて」の上映会が行われた。映画の制作を手がけたのは石巻市出身の佐藤そのみさん。東日本大震災での自らの経験をもとに映画を制作した。その思いを取材した。
佐藤さんは小さい頃からものを作ることが好きで、小学6年生の時には、すでに映画を撮ることを志していた。中学2年生だった2011年、東日本大震災がおきて、佐藤さんの環境も大きく変わってしまった。みなさんは児童74人と教職員10人がなくなった大川小学校をご存知だろうか。そのうちの一人は佐藤さんの妹さん(当時12歳)だった。
佐藤さんが大好きだった大川地区の景色はすべてなくなってしまった。しかし、記憶に残る美しい自然、そこに暮らすあたたかい人たちを自分の手で撮りたい、映像にしたい、という佐藤さんの想いは変わらなかった。高校では演劇部に所属して脚本を担当し、卒業後は日本大学芸術学部に進み、映像の勉強に励んだ。今回の作品は、大学在学中に制作されたものだ。
「春をかさねて」は、大川中学校3年生の「ゆうみ」と、その親友「れい」、そして、2人をつつむ大川地区の自然と人々の物語である。震災によって奪われたもの、震災がもたらしたもの、静かな日常を一変させた「あの日」が、少女たちの等身大の目線で描かれている。丁寧に映された大川地区の風景、人びとの繊細な気持ちの変化、紡ぎだされた言葉のひとつひとつが深く美しい作品に仕上がっている。
佐藤さんが、上映会を石巻で開催しようと決めたのは、地元の人に見てほしいという強い想いがあったからだった。「あの日から心を閉ざしてしまった人、言葉を発せなくなってしまった人が大川地区にたくさんいると思います。みなさんが一歩を踏み出せるきっかけを作りたいと思いました」と佐藤さんは言う。
タイトルの「春をかさねて」には、その思いを込めた。震災があって、3月はずっと暗い春だった。そんな春を、何度も何度も乗り越えて、「本当のあたたかい春を迎えよう」と人々の心が癒されていく。映画に登場する二人の少女をとおして佐藤さんが描きたかったのは、そんな折り重なった春のことと、幾つもの過ぎていった季節のなかで人々の心が移り変わっていく様子でもあったそうだ。
佐藤さんにとって、最も印象に残っているのは、大勢のボランティアや住民が集まっているシーン。地元の人もエキストラとして参加したこのシーン。大川地区の風景を映すカメラのフレームのなかに地元の人たちが本当にいてくれたこと、それが自分の大好きな地元の思い出を再現してくれたようだった。みんなでワイワイする場面は、映像のどこを見ても新たな発見があるように工夫をこらした、と佐藤さんは話していた。
「当初は映画を作らなきゃという義務感がありましたが、撮影を進めていくうちに、ちゃんと作りたい、撮りたいと思いがつのりました。そして、それを形にすることができたと思います」。
佐藤さんがこの映画に込めた想いがあたたかい春を連れて、多くの人に届くことを願う。
▲映画の告知に使われた大川地区のイラストは佐藤さんのお母さんが描いた。大川地区に実在する場所でもあり、劇中にも2回登場している
佐藤そのみ
宮城県石巻市生まれ。大川小学校、大川中学校、石巻高校、日本大学芸術学部卒業。大学在学中の2018~2019年に、劇映画「春をかさねて」を自主制作 東京在住
取材・文
齋藤 小枝
(好文舘高校3年生)