劇団四季のミュージカル『キャッツ』(東京エレクトロンホール宮城=仙台市=8月20日千秋楽)に出演している俳優・岩崎晋也さんにお話を聞いた。
岩崎さんはドライブが好き。先日、石巻に行ってきたばかり。「震災の被災地には初めて行きました。あぁ、これが現実かと。テレビや新聞などの情報で知っているつもりになっていたけれど、実際に訪れてみると自分の無力さを感じました」
岩崎さんが踊りを始めたきっかけは、9歳のとき、『キャッツ』のマジシャン猫「ミストフェリーズ」を観て、「僕は絶対これになる!」と思ったこと。そして、クラシックバレエを始めた。『キャッツ』に出演して今年で8年になる。初めての役は「タンブルブルータス」。2年後には「ミストフェリーズ」を演じた。「演じている時は自分の役で『生きる』ことに必死です。違う人生を歩む、自分ではない、『役』になりきるんです。カーテンコールでお客様から拍手をもらった時に初めて『今日もやってよかった』と思う、本当に幸せな時間です」と岩崎さん。
猫という自分と違う生き物を演じてみるのはどういう気持ちだろうか。「僕たちも猫の気持ちを聞いてみたい。『キャッツ』の中で『人間も猫に似ている』と言っていますが、それは強く生きようとしているということです。人間も猫も強く生きようとするものが選ばれます。猫に限らず野生動物は、その時生きるのに必死です」。人間も生きることに対して、目の前のことを当たり前と考えてはいけないと『キャッツ』に出演して感じたそうだ。そして、人間に媚びないのが特徴。本当の猫はどう感じているのかと、いつも考えて演じている。役について考えすぎて「自分は、本当は猫なのでは?」と思ったこともあったそうだ。
『キャッツ』のメイクは俳優が自分でする。大切なのは、いかに野生的に見えるか。一番難しいのは目。目ですごく印象が変わる。人間っぽくならないよう、猫に見えるように工夫する。猫独特の「シュッ」とした感じに仕上げる工夫をすることがすごく大変。道具を使って毛やひげを「シャシャシャッ」と描くのも大変。男らしい、強い猫に見えるようにするときは目をすごくつりあげて鋭さを出す。メス猫は丸みをおびた目にするなど、役柄によってみんな工夫しているそうだ。
舞台装置はゴミのオブジェまで一つひとつすべて手作り。舞台を作る人、演じる人、それぞれ役割分担がある。大道具の装置を動かすスタッフは、俳優が怪我をしないよう細心のチェックをしてくれている。「演じたり、踊ったり、歌ったりということ以上に大切なことを裏で支えてくれるスタッフがいるから安全に舞台の上に立てます」と岩崎さんは言う。
『キャッツ』を通して伝えたいことは、「『メモリー』の歌にあるように、『明日に向かって前向きにどう生きるべきか』をお客様に考えていただければと思います。それは僕が石巻に来て改めて感じたことでした。自分たちが前向きなエネルギーを送ることによって、ひとりでも多くのお客様が「明日もがんばろう!」と感じてくれたらうれしいです。過去を受け入れ、今を生きて、その結果が明日につながると思います。だから、嫌なこと、辛いことから逃げないで、しっかりと自分で受け止めて、どうやって次につなげるかを考えてみてほしいです」。
『キャッツ』を見ると、明日に勝てそうな気がして来た。みなさんにも是非見てほしい。
取材・文:松林 拓希(蛇田小学校6年生)