私たちの学校には「テイラー文庫」がある。2008年8月から2011年3月11日まで石巻市に住んでいたテイラー・アンダーソン先生の意志を継いでできたものだ。テイラー先生は東日本大震災による津波で亡くなったと聞いている。震災から7年半たち、テイラー文庫がどうしてできたのか、テイラー・アンダーソン先生はどんな人だったのか、くわしく知りたいので取材することにした。
テイラー文庫について
寺田美穂子さんはテイラー・アンダーソン記念基金でボランティアをしている。テイラー先生に会ったことはないが、ご両親や関係者から話をたくさん聞いたそうだ。テイラー先生は、JETプログラムでアメリカから来日し、ALT(英語指導助手)として石巻で働いていた。2011年、東日本大震災で津波に巻き込まれ、24歳で亡くなった。そのことを知った多くの人たちから、テイラー先生のご両親にたくさんの寄付が集まった。
「先生は本が大好きでした。本をたくさん読んで、日本に来るという夢を見つけたそうです。そこで、先生の両親は、石巻の子どもたちに、本をたくさん読んで夢を見つけてもらいたいと思って、テイラー文庫を作ることを決めたそうです」と寺田さん。
ひとつめの文庫は、2011年9月に万石浦小学校にできた。次に、先生が教えていた7つの学校に作り、今では万石浦中学校、鹿妻小学校、稲井幼稚園、稲井小学校、稲井中学校、渡波小学校、渡波中学校、桜塾、石巻高校、石巻専修大学、釜小学校、雄勝小学校の13カ所にある。
図書館ほど大きくないので「文庫」と呼ぶことにして、先生の名前とあわせて「テイラー文庫」という名前になった。今、約2万冊の本があるそうだ。本は、基金からそれぞれの学校に図書券を渡し選んで買ってもらっている。先生のお父さんが用意した先生が好きだった本のリストを参考に、それぞれの学校の先生たちが子どもたちに必要な本を選ぶやりかただ。
本を並べる本棚にも工夫がある。それぞれの学校の希望にあわせて、石巻に住んでいる木工作家の遠藤伸一さんが制作する。次の文庫は湊小学校に置く計画だ。
テイラー・アンダーソン記念基金は、石巻地域の英語スピーチコンテストで賞を設けたり、先生の出身大学と石巻専修大学、先生のふるさとバージニア州リッチモンドと石巻の高校生の交換プログラムを行ったり、学校図書支援や地域のスポーツ、文化活動の支援も行なっている。テイラー先生が石巻に残したものはどんどん広がっている。
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テイラー先生との思い出
先生の教え子だった依田千花さんと松川彩香さんに話を聞いた。依田さんは、今、高校の英語教師、松川さんは石巻市役所で働いている。2人は24歳。先生が亡くなったのと同じ年だ。
稲井中学校で先生に英語を教えてもらった。中学校で、生徒たちは親しみをこめて先生のことを「テイラー」と呼んでいた。「テイラーは笑顔が素敵で、生徒ひとりひとりをとてもよくおぼえてくれていました」と松川さん。忘れられないのは、2人が高校生になってから、市内のパン屋で先生に会って、声をかけたときのこと。「私たちのことをとてもよくおぼえていて、『勉強がんばってね』と応援してくれたんです」。依田さんは先生の記憶力に驚いたそうだ。
アニメが好きで、生徒たちに「石ノ森萬画館には絶対行くべきよ」と話していた。授業中の先生は声が大きくていつも元気だった。依田さんは、「英語教師になろうと思ったのは、先生に影響を受けたからだと思います。元気な授業を心がけています」と話していた。
「震災直後、父から、稲井にいた英語の先生が亡くなったと聞きました」と松川さん。もしかしてテイラー先生かな?と心配していたが、何日か後に新聞で確認した。信じられなかったそうだ。2人ともテイラー先生が今の自分たちと同じ年で亡くなったと思うとズシっと感じると言う。
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幼稚園でのテイラー先生
稲井中学校2年生の杉山大愛さんは、幼稚園年長のときにテイラー先生に英語を教わった。先生とよくままごとで遊んだことをおぼえている。先生は明るくて、とにかくやさしくて、いろんな遊びにつきあってくれた。
先生の好きなキャラクターはキティちゃん。ごはんもいっしょに食べた。いつも先生の隣の席はとりあいで、先生は大人気だった。夏祭りで浴衣を着た先生と写真を撮ったり、運動会にいっしょに参加したり。「先生というより、いろんな話を聞いてくれる友達のように感じていました」と杉山さんは話してくれた。いつも元気で満面の笑顔で子どもたちに接していたテイラー先生は、本当に石巻の子どもたちが大好きだった。そして、その姿はいつまでもみんなの心に残っている。
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【取材・文・写真】阿部 匠之介(渡波小学校5年生)、安藤 雛(稲井小6年生)、遠藤 海槙(稲井小学校5年生)